【2026年10月施行】カスハラ防止措置義務とは?社労士が顧問先と確認したい実務対応
顧問先から「2026年10月までに、規程やマニュアルを作ればよいのでしょうか」と聞かれたとき、どこまで準備を求めるべきか迷う社会保険労務士もいるでしょう。
カスタマーハラスメント対策では、文書を作るだけでなく、相談を受け付け、現場担当者を一人にせず、事実確認や被害者への配慮、再発防止まで進められる体制が必要です。
一方、顧客からの苦情がすべてカスタマーハラスメントになるわけではなく、正当な申入れを一律に排除しない運用も欠かせません。
この記事では、2026年10月1日の施行に向けて、対象となる事業主、求められる措置、施行前の準備手順、社労士や中小企業診断士による支援の整理を解説します。
カスハラ防止措置義務は誰に、いつから適用されるのか
施行日は2026年10月1日、義務を負う主体は事業主
「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律等の一部を改正する法律」(令和7年法律第63号)は、2025年6月11日に公布されました。カスタマーハラスメント防止措置義務に関する改正規定は、2026年10月1日に施行されます。
具体的な措置内容は、2026年2月26日に公布された厚生労働省の指針に示されています。さらに、厚生労働省は同年4月24日、運用通達と「ハラスメント防止措置義務規定等における解釈事項について」を公表しています。
法令上、雇用管理上の措置義務を負う主体は「事業主」です。今回確認した厚生労働省の資料には、企業規模による適用猶予や中小企業を対象外とする記載は見当たりません。そのため、社労士が顧問先を確認する際は、従業員数が少ないことだけを理由に準備を不要と判断せず、雇用の有無や既存体制を確認する必要があります。
ただし、労働者を一人も雇用していない個人事業主に同じ措置義務が直接適用されるかは、今回確認した資料だけでは断定できません。該当する可能性がある事業者は、施行前に最新の厚生労働省資料や個別の専門的な見解を確認するのが適切です。
パートや契約社員も保護対象に含まれる
保護対象となる「労働者」には、正規雇用労働者だけでなく、パートタイム労働者や契約社員などの非正規雇用労働者も含まれます。派遣労働者については、派遣元事業主に加え、派遣先にも一定の規定上、必要な措置を講じることが求められます。
たとえば、小売店で顧客からの電話をパート従業員が受け、正社員の店長へ引き継ぐ運用になっている場合、店長だけが対処方針を理解していても十分とは限りません。最初に顧客と接する従業員が、どのような場面で相談できるのか、誰へ交代を求めるのかを理解できるように周知する必要があります。
顧問先の周知資料や研修対象者を確認するときは、雇用区分ではなく、実際に顧客や取引先と接する可能性がある労働者を基準に点検すると漏れを見つけやすくなります。
判断には3つの要素がある
職場におけるカスタマーハラスメントは、次の3要素をすべて満たすものとされています。
- 職場において行われる顧客等の言動であること
- 業務の性質その他の事情に照らし、社会通念上許容される範囲を超えた言動であること
- その言動によって労働者の就業環境が害されること
ここでいう「顧客等」は、現在の顧客だけに限られません。潜在的な顧客、取引先の担当者、サービス利用者やその家族、施設の近隣住民なども含まれ得ます。
「職場」も事業所内だけを意味するものではありません。取引先の事務所、顧客宅、打ち合わせ先など、労働者が業務を行う場所が含まれます。電話、電子メール、チャット、SNSなどでの言動も対象になり得るため、対面接客のある業種だけの問題と捉えないことが重要です。
ただし、強い口調の苦情や繰り返しの申入れが、直ちにカスタマーハラスメントになるわけではありません。判断時には、申入れの内容と、伝え方や行動の態様を分けて確認します。そのうえで、目的、経緯、頻度、継続性、業種・業態、労働者の状況などを総合的に考慮します。
正当な苦情を一律に拒否すれば、消費者の権利を阻害するおそれがあります。また、障害者差別解消法上の不当な差別的取扱いの禁止や、合理的配慮の提供義務にも留意が必要です。定型的な禁止事項だけで機械的に判断せず、個別事情を確認できる体制が求められます。
事業主に求められる措置を実務単位で整理する
方針を明確にし、対処内容とともに周知する
事業主は、カスタマーハラスメントには毅然とした態度で対応し、労働者を保護するという方針を明確にします。さらに、カスタマーハラスメントの内容と、発生時に予定している対処を労働者へ周知します。
周知方法としては、社内規程、対応マニュアル、社内報、社内ホームページ、研修や講習などが示されています。小規模企業で社内ポータルがない場合でも、既存の就業規則や顧客対応マニュアルへの追記、従業員への説明会などを組み合わせることが考えられます。
事前に定める対処の例には、現場担当者を一人で対応させないこと、管理監督者への交代、警察への通報、本社や本部との情報共有、法務部門や弁護士との連携などがあります。ただし、すべての事案で警察への通報やサービス提供の停止を行うという意味ではありません。事案の内容と事前の方針に基づいて判断するための体制を整える必要があります。
相談窓口は「迷った段階」で使えるようにする
事業主は相談窓口をあらかじめ定め、その存在と利用方法を労働者へ周知します。窓口は専任部署として新設する方法だけでなく、担当者の指定、相談制度の設置、外部機関への委託も可能です。既存のハラスメント相談窓口と一体的に運用する方法も示されています。
重要なのは、カスタマーハラスメントだと確定した事案だけを受け付ける窓口にしないことです。発生のおそれがある場合や、該当するか判断が難しい場合にも、広く相談に対応する必要があります。
たとえば、担当者が「要求内容は理解できるが、毎晩長時間の電話が続いている」と感じている段階で相談できれば、管理者への交代や複数人対応を早めに検討できます。「明確な暴言がなければ相談できない」と従業員が受け取る表現は避け、迷った段階でも利用できることを周知するのが実務上の要点です。
窓口名だけを社内資料へ載せても、担当者が対応方法を知らず、次の連絡先も決まっていなければ運用は止まります。相談担当者が管理者、人事、法務などの関係部門と連携できる仕組みを作り、対応マニュアルや担当者研修も整える必要があります。
発生後は事実確認と被害者への配慮を進める
相談を受けた後は、事実関係を迅速かつ正確に確認します。必要に応じて、相談者、周囲の労働者、行為者から事情を聴き、録音や録画などの客観的資料も確認します。
事実が確認できた場合には、担当者の交代、複数人での対応、被害者と行為者の引き離し、配置転換、メンタルヘルス相談など、被害者への配慮措置を速やかに実施します。犯罪に該当し得る言動は警察へ通報し、法的手続が必要な場合には法務部門や弁護士へ相談することが対処例として示されています。
事実確認では、最初から「顧客が悪い」「担当者の接客に問題があった」と結論を決めないことが大切です。顧客の申入れ内容、言動の手段・態様、発生までの経緯、従業員への影響、その場での対応を分けて確認すると、正当な苦情と許容範囲を超えた言動を混同しにくくなります。
再発防止と相談者保護も措置に含まれる
発生後は、方針や対処内容を改めて周知し、必要な再発防止策を講じます。商品、サービス、接客、顧客とのコミュニケーションに問題の原因や背景があれば、その部分も改善対象になります。事実を確認できなかった場合であっても、同様の問題を防ぐための措置が必要です。
また、特に悪質と考えられる事案への対処方針を事前に定め、関係部門が連携できる体制を整えます。警告文の発出、法令の範囲内での商品販売・サービス提供の停止、施設への出入り禁止、仮処分命令の申立てなどが例示されていますが、個別事案で必ず実施する措置ではありません。具体的な法的判断が必要な場面では、弁護士等への確認が求められます。
併せて、相談者などのプライバシーを保護する措置を講じ、その内容を労働者へ周知します。相談、事実確認への協力、労働局への相談や調停申請などを理由に、解雇その他の不利益な取扱いを行わない旨も定め、周知・啓発しなければなりません。
施行前に確認したい準備を8段階で進める
1|既存制度を棚卸しする
最初に、新しい制度を一から作るのではなく、顧問先にすでにある仕組みを確認します。確認対象は、既存のハラスメント方針、相談窓口、就業規則、緊急連絡網、顧客対応マニュアル、事故・トラブル報告書などです。
棚卸しでは、文書の有無だけでなく「現在も使われているか」を確認します。相談窓口の担当者が異動している、緊急連絡先が更新されていない、パート従業員には周知されていないといった状態であれば、既存制度があっても実際には機能しない可能性があります。
2|対応方針と対象範囲を明文化する
方針には、カスタマーハラスメントに毅然と対応して従業員を保護することを明記します。同時に、正当な苦情まで一律に排除しないことも示します。
対象となり得る場面には、事業所内の対面対応だけでなく、電話、電子メール、SNS、訪問先、顧客宅などを含めます。また、該当性を判断できない段階でも相談できること、相談者等のプライバシーを保護すること、相談や事実確認への協力を理由とする不利益取扱いを行わないことも周知事項として確認します。
3|相談窓口と各段階の責任者を決める
相談受付、管理者への交代、事実確認、被害者への配慮、顧客への対応、最終判断を誰が担うかを決めます。
小規模企業では、これらを同じ経営者や管理者が担当することも考えられます。その場合は、本人が不在のときの代行者や、相談内容に本人が関係している場合の外部窓口を検討します。外部委託を利用する場合も、外部窓口から社内の誰へ連絡し、誰が対応を決定するかまで定める必要があります。
4|現場から責任者までの連絡経路を作る
現場担当者が迷わず動けるよう、相談受付から再発防止までの流れを整理します。実務では、次のような順序が考えられます。
- 従業員が言動と周囲の状況を把握する
- 危険性や継続性を踏まえて管理者へ報告する
- 必要に応じて担当者を交代し、複数人で対応する
- 相談担当者または責任者が事実関係を確認する
- 被害者への配慮措置を実施する
- 必要性に応じて警察、法務部門、弁護士等へ連携する
- 原因と対応結果を検証し、再発防止策を決める
この流れは業種、顧客との接点、従業員体制に合わせて調整します。電話対応が中心の企業と、従業員が一人で顧客宅を訪問する企業では、危険を知らせる方法や担当交代の手順が異なるためです。
5|実務用の記録方法を整える
指針では、必要に応じて事案の内容や対応経緯を記録し、個人情報の取扱いに留意して関係部門へ共有し、再発防止に活用することが例示されています。
記録項目としては、発生日時と場所、対応手段、関係者、顧客等の申入れ内容、言動の手段・態様、経緯、頻度、継続性、従業員への影響、実施した対応、関係部門への連絡状況、客観的資料の有無、被害者への配慮措置、再発防止策などが考えられます。
特に、申入れの内容と伝え方を別々に記録することが重要です。たとえば「納品物の修正を求めた」という要求内容と、「深夜に繰り返し電話し、担当者を威圧した」という態様を分ければ、正当な要求の有無と、言動が許容範囲を超えているかを検討しやすくなります。
ただし、確認した指針からは、すべての事案について特定様式で記録する一律の義務や、相談記録の統一的な法定保存期間は読み取れません。記録票は、迅速な事実確認や再発防止を進めるための運用手段として位置付け、「法律上必須の統一様式」と説明しないよう注意が必要です。
6|個人情報の取扱いを決める
録音、録画、相談記録には、顧客等と従業員双方の個人情報が含まれる可能性があります。記録を作る場合は、閲覧できる担当者、関係部門への共有範囲、保管場所、持ち出しの可否などを決めます。
「念のため全員に共有する」といった運用は、プライバシー保護の観点から問題になる可能性があります。事実確認や対応に必要な範囲を整理し、個人情報保護法等を踏まえて取り扱う必要があります。
7|担当者研修と想定訓練を行う
研修では、カスタマーハラスメントの3要素、正当な苦情との区別、相談受付、担当者の交代、事実確認、記録、プライバシー保護、不利益取扱いの禁止、外部機関への連携手順などを扱います。
編集部では、文書を読み合わせるだけでなく、判断が微妙な事例を使った想定訓練が有用と考えます。たとえば、「要求自体は契約に沿っているが、担当者への連絡が長時間に及ぶ場合」や「顧客の家族が繰り返し職員を非難する場合」を想定し、誰が相談を受け、どの時点で担当者を交代し、何を記録するかを確認します。
訓練の目的は、その場で該当性を断定できる人を増やすことではありません。判断が難しい事案を一人で抱えず、定めた連絡経路へ乗せられるかを確認することにあります。
8|施行前後に運用状況を点検する
施行前は、方針、窓口、連絡経路、担当者、外部連携先、研修の実施状況を確認します。施行後は、文書が置かれているかだけでなく、相談しやすかったか、必要な担当交代が行われたか、被害者への配慮や再発防止策が実施されたかを点検します。
相談件数が少ないことだけで「問題がない」と判断するのは適切ではありません。窓口が知られていない、相談すると不利益を受けると思われている、担当者が利用をためらっている可能性も考えられます。相談方法の認知度や、管理者への報告に迷った事例の有無も確認すると、運用上の課題を見つけやすくなります。
社労士・診断士・弁護士等の支援範囲をどう整理するか
社会保険労務士は雇用管理の仕組みを確認する
社会保険労務士による支援候補として、事業主方針や社内規程の整備、相談体制、従業員への周知・研修、プライバシー保護、不利益取扱い防止などが考えられます。
顧問先への初回確認では、「方針」「相談窓口」「管理者への交代条件」「事実確認と被害者配慮の担当者」「警察や法務部門、弁護士等への連携先」の5点を見ると、文書と実務のずれを把握しやすくなります。
ただし、社労士に相談したことや規程を作成したことだけで、事業主の措置義務への対応が完了するとは断定できません。窓口が利用でき、発生後の対応や再発防止まで動くかを顧問先と確認する必要があります。
中小企業診断士は業務フローへの接続を支援する
中小企業診断士や業務改善コンサルタントには、相談受付、現場報告、管理者判断、関係部門との連携、事後検証までの業務フローを設計する支援機会があると考えられます。
たとえば、規程上は「上司へ報告する」とされていても、夜間の店舗で上司と連絡が取れなければ、現場担当者は一人で対応を続けることになります。実際の勤務体制や連絡手段を確認し、代行者、複数人対応への切替条件、緊急時の連絡先まで落とし込むことが業務改善上の課題になります。
発生後に、商品、サービス、接客、顧客への説明方法などに背景となる問題がなかったかを検証し、再発防止へつなげることも支援候補です。
法的判断や悪質事案では適切な連携先を確認する
個別事案の法的評価、顧客への警告、サービス提供の停止、施設への出入り禁止、仮処分などは、具体的事情や関係法令を踏まえた判断が必要です。犯罪に該当し得る言動では警察への通報を検討し、法的対応については必要に応じて弁護士等へ相談します。
社会保険労務士と中小企業診断士の役割分担は、厚生労働省の資料が定めた公式な区分ではありません。本記事で示した分担は、指針の要求事項を実務へ落とし込むための編集部による企画上の整理です。
共同で支援する場合は、契約時に作成する文書、担当する研修、業務フローの設計範囲、個別事案の判断主体、専門家への連携方法、責任分界を明確にする必要があります。それぞれの業務範囲や独占業務との境界についても、個別に確認することが適切です。
まとめ|今日から既存制度と現場の連絡経路を確認する
カスタマーハラスメント防止措置義務は、2026年10月1日に施行されます。事業主には、方針の明確化・周知、相談体制、発生後の対応、再発防止、悪質事案への対処体制、プライバシー保護、不利益取扱いの禁止などが求められます。
準備の中心は、規程やマニュアルを作ることだけではありません。従業員が判断に迷った段階で相談でき、必要に応じて管理者へ交代し、事実確認、被害者への配慮、外部機関との連携、再発防止まで進められることが重要です。
今日から着手するなら、まず既存の規程、相談窓口、緊急連絡網、顧客対応マニュアルを開き、次の5点を確認してください。
- カスタマーハラスメントに対する事業主の方針が記載されているか
- パートや契約社員を含む従業員が利用できる相談窓口があるか
- 現場担当者から管理者へ交代する条件が決まっているか
- 事実確認と被害者への配慮を誰が担当するか決まっているか
- 警察、法務部門、弁護士等への連携先と社内の判断者が決まっているか
社会保険労務士は、この5点を顧問先への初回ヒアリング項目として使い、不足する雇用管理上の仕組みを整理できます。中小企業診断士は、文書に書かれた手順と実際の勤務体制、連絡手段、部門間の流れがつながっているかを確認できます。
最後に、厚生労働省の法改正案内ページを開き、施行日、指針、運用通達に加えて、新しいQ&Aや解説資料が公表されていないかを確認してください。施行前後に資料が追加された場合は、社内規程や研修内容だけでなく、相談受付から再発防止までの運用にも反映することが判断の基準になります。
出典一覧
- 厚生労働省「令和7年の労働施策総合推進法等の一部改正について」(2025-06-11)
- 厚生労働省「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和8年厚生労働省告示第51号)」(2026-02-26)
- 厚生労働省「ハラスメント防止措置義務規定等における解釈事項について」(2026-04-24)
- 厚生労働省「あんしんして働ける明るい職場へ―ハラスメント対策の強化で何が変わる?」(2026-07-01)
- あかるい職場応援団「カスタマーハラスメント、求職者等に対するセクシュアルハラスメントの法制化」(確認日:2026-08-01)
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